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テプロツムマブの現在までに出されている効果・有効性について
テプロツムマブの現在までに出されている
効果について
前回、テプロツムマブについてのお話をしましたが、副作用や費用、適応などについて語りましたが、効果について書き忘れ(笑)ていたのでここで書かせていただきます。
まずは非常に有名な元UCLAフェローの先輩であるRaymond Douglas先生の論文から
Teprotumumab for the Treatment of Active Thyroid Eye Disease
Authors: Raymond S. Douglas, M.D., Ph.D et al.
Published January 22, 2020 N Engl J Med
この論文は全文が公開されています
この論文は、テプロツムマブ(teprotumumab)というインスリン様成長因子I受容体(IGF-IR)阻害剤が、甲状腺眼症(Thyroid Eye Disease, TED)の治療において非常に有効であることを示した臨床試験(OPTIC試験)の結果を詳述しています。
OPTIC試験は、テプロツムマブの有効性を偽薬と比較するもので、主に眼球突出の減少に焦点を当てています。試験には83人の中等度から重度のTED患者が参加し、テプロツムマブ投与群と偽薬群(無治療)に無作為に割り振られ、テプロツムマブは21週間にわたって3週間ごとに静脈内投与され、24週目に主要な結果が評価されました。
主要な結果として、テプロツムマブ群の83%の患者がプロプトシスの2mm以上の減少を示したのに対し、偽薬群では10%のみでした。
この差は統計的に有意で、テプロツムマブの効果が明確に現れました。
さらに、テプロツムマブは炎症スコアの低下や、複視の改善、視覚および外観に関するQOL(生活の質)の向上にも寄与しました。これらの効果は、6週目の初回評価から既に顕著に現れ、24週間にわたって持続しました。視覚的な機能や外観に関するQOLスコアは、テプロツムマブ群で著しい改善が見られ、特に外観に関連するスコアは平均19ポイントの改善を示しました。
さらに、6人の患者に対して行われたMRI解析では、テプロツムマブによる治療が眼筋や眼窩脂肪の体積減少をもたらしたことが確認されました。特に、外眼筋の体積は35%減少し、眼球突出の減少と相関が見られました。
安全性に関しては、テプロツムマブは全般的に良好な忍容性を示し、報告された副作用の多くは軽度から中等度でした。主な副作用としては、筋肉痙攣や高血糖、聴覚障害などが報告されましたが、深刻な副作用は稀であり、多くの患者が治療を完了しました。
総じて、この試験はテプロツムマブが甲状腺眼症に対して非常に効果的であり、眼球突出や炎症、複視の改善に寄与することを示しています。また、これらの効果は治療開始から早期に現れ、治療期間中に持続しました。したがって、テプロツムマブはTEDの新しい治療選択肢として期待されており、患者の生活の質を大幅に改善する可能性があります。
Comment
かなり効果的であることがわかります。ステロイドに抵抗性のある患者さんに対して、明るい希望となったのではないでしょうか。ただしこれらは中等度以上の方々に対して行われているという点に留意が必要です。日本なら大学病院に入院レベルの患者の結果ということです。
次に斜視や複視に対する効果です
The effect of teprotumumab infusion on ocular alignment in patients with symptomatic thyroid eye disease
Author Charles Zhang MD et al
Journal of American Association for Pediatric Ophthalmology and Strabismus Volume 28, Issue 4 August 2024, 103959
2020年4月から2023年9月にかけて、中等度から重度のTED患者19人の医療記録を遡及的にレビューし、各診察で検査を実施し、眼位異常の変化を測定した。
結果として、19人中11人が斜視と複視を呈していましたが、治療後、73%の患者で斜視が改善し、46%の患者で複視が完全に解消されました。
改善しなかった患者の一部は斜視手術を受けました。
Comment
斜視、複視についてもかなり良い反応を示しているようですね。従来のパルスや内服だと複視の改善はここまで無かったと思いますので、これもまた新しい治療として非常に嬉しいものになります。なにより斜視角を減らせる効果があるであろうことが読み取れますね。
次に、ドライアイ症状については
どうでしょうか UCLAからの論文です
Investigative Ophthalmology & Visual Science June 2022, Vol.63, 3997 – A0339. doi:
The Effect of Teprotumumab on Ocular Surface Symptoms in Thyroid Eye Disease
Author Mario Cale et al.
甲状腺眼症(TED)患者の最大85%にドライアイ症状がみられるが、テプロツムマブがこれらの症状にどう影響するかは不明です。本研究は、テプロツムマブがTED患者の主観的および客観的な眼表面疾患症状を改善するかを検証しました。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校のTED患者を対象に、テプロツムマブがOcular Surface Disease Index(OSDI)スコアに与える影響を調査。治療群と未治療の対照群を比較しました。
テプロツムマブ治療群は、OSDIスコアが有意に減少(15.4ポイント減少, p=0.002)。しかし、客観的なドライアイ症状の改善には差が見られませんでした。
テプロツムマブは主観的な眼表面症状を改善するが、物理的な検査結果には限定的な影響しか及ぼさない可能性があります。
Comment
ドライアイスコアは改善するものの、あまり顕著な効果は出ていないようです。ともあれ、眼球突出が改善すればドライアイ症状の改善があるのは当たり前ですね!
発症から長期間たった方々への効果について
Effects of teprotumumab on patients with long-standing, active thyroid eye disease
Author Kyle B. Vinson
Am J Ophthalmol Case Rep. 2022 Jun; 26: 101348.
本研究は、9か月以上TEDの症状を抱えた5人の患者にテプロツムマブを投与し、その効果を観察しました。
このうち2人の患者は、以前に放射線療法を受けたが効果が見られなかった者です。
結果は、全5例ともに、各眼で少なくとも2mmの眼球突出の改善が見られ、臨床活動スコア(CAS)は少なくとも2ポイント減少しました。
特に、眼球突出の改善幅は右眼で平均4.5mm、左眼で4mmに達し、複視もすべての症例で改善しました。
眼瞼裂開大も、5例中4例で改善が見られ、1例は完全に解消されました。
これらの結果から、テプロツムマブは長期にわたり活性化したTEDの患者にも有効であり、特に眼球突出と複視の改善に顕著な効果を示しました。
また、以前の眼窩放射線療法が無効だった患者でも改善が見られたことから、放射線療法が無効な症例にも有効な可能性が示唆されます。
さらに、眼瞼裂開大(ラゴフトルモス)もほとんどの症例で改善され、患者の生活の質の向上に寄与しました。
テプロツムマブ治療による副作用は比較的軽度で、筋肉の痙攣や軽度の聴覚障害などが一部の患者で見られましたが、全体的には良好な忍容性を示しました。
Comment
これがまさにテプロツムマブの存在意義でもあると思います。ステロイドなどの既存の治療法に対して抵抗性のあるTED患者への画期的な治療薬になるのですね。素晴らしい効果が期待できます。
テプロツムマブを行った後の
再活性化についての論文
Reactivation After Teprotumumab Treatment for Active Thyroid Eye Disease
Author; Catherine J Hwang
Am J Ophthalmol. 2024 Jul:263:152-159.
Cathyも元UCLAですね。僕がUCLAに居た時にナンバー3のドクターでした(笑)
2020年5月から2021年5月の間にテプロツムマブ治療を受けた活性甲状腺眼症の患者を対象とした研究。
主要な評価項目は再活性化で、これはプロプトシス(眼球突出)が2mm以上増加し、治療前のレベルに2mm以内に戻ること、かつ臨床活動スコア(CAS)が2ポイント以上悪化することと定義されました。
研究には合計21人の患者が含まれました。テプロツムマブ治療後の長期的なプロプトシスの平均改善は1.57mm(範囲:-3〜4mm)でした。
最初の17人の反応者のうち、8人(47%!)に再活性化が見られ、2人(12%)はプロプトシスのみが再発しました。
全体で21人中7人(33%)が研究期間を通じて反応を示しました。
再発までの平均時間は12.25か月(範囲:2〜22.5か月)でした。
どのサブグループにおいても最終訪問時に複視の有意な変化は見られませんでした(P = 0.68〜>0.99)。
テプロツムマブ治療後2年以内に、最大で33%の患者が持続的な反応を示しました。
プロプトシスおよびCASの悪化は、80%の再発において病気の再活性化と関連していました。
テプロツムマブ治療は、複視の長期的な改善にはほとんど効果がないようです。
Comment
47%にTEDの再活性化がみられること、再発までの期間が12カ月であること、再活性化しても複視は悪化しない(つまり軽度の再発に留まる?)ということが分かりました。TEDへの特効薬になり得るのですが、再活性化・再燃があり得る。しかも高い割合で、、、、という結果でした。
以上、日本での発売間近のテプロツムマブ(商品名テペッツァ)の効果について解説しました!
参考になれば幸いです!